「Craft SS World!」

戦国時代を中心とした歴史系サイドストーリー!遅筆です。。。

「ラブライブ!Sengoku Warlord Festival ! ~桶狭間編~」 ⑨

 時は戻り駿河の国、善徳寺の一室。
 部屋には張りつめた空気が漂っている。それもそのはず、この場には戦国の時代を象徴する三人が互いに対峙していた。
 甲斐国当主、「甲斐の虎」の異名を持つ武田晴信
 相模国当主、「相模の獅子」の異名を持つ北条氏康
 そして、この会談を画策した駿河国当主、「海道一の弓取り」の異名を持つ矢澤にこ
 そしてこの三人に加え、この会談の真の提案者である矢澤家臣の東條希がにこの後ろに控えていた。
『……本当に、やってくれたわね。希。』
 今、この善徳寺で、歴史が大きく動こうとしていたのである。
 
「晴信殿、氏康殿。お二方とも駿河国までご苦労だったわね。とりあえずお茶でも飲んで、一心地つくといいわ。」
 緊張の中、会談の口火を切ったのは駿河国当主、矢澤にこだった。
「我らは自国を家臣に任せ、この場に参った身であるゆえ、一刻も早く国へ戻りたい。思うてもない労いは結構として、早速矢澤殿の話を拝聴したく存ずる。」
 にこの言葉に刺のある返事をしたのは相模国当主、北条氏康。彼はつい半年前まで相模国駿河国の国境を巡り、矢澤家と争っている。
「まあまあ、氏康殿。この駿河は茶の名産地というが、この茶もなかなか美味である。貴殿も馳走になるがよい。」
 「ズズッ」という茶をすする音とともに、この会談の主役の最後の一人である甲斐国当主、武田晴信が口をはさんだ。
 現在、駿河国甲斐国は同盟の関係にある。しかし、戦国最強とも名高い騎馬軍団を率いる武田家は、北条と同じく矢澤家には脅威の対象である。
 
「そうね。せっかくのもてなしのお茶すら飲めない忙しい人もいるみたいだし、早速本題に入ろうかしら。」
 緊張した言葉の応酬の中、にこから挑発的な言葉が口をついた。
「まあ話の本題と言っても、この会談を開くにあたって、私の家臣の東條が二人のところへ使者に行って説明をした通りだけどね。」
 にこは同席している希のほうに目をやる。
「希、改めて説明しなさい。」
 にこの後ろに控えていた希は、にこの横まできて、頭を少しだけ伏せると説明を始めた。
「はい。今回の会談の一番の趣旨としては、駿河を治める矢澤家、甲斐を治める武田家、そして相模を治める北条家、この三国が同盟を結ぶことにあります。同盟を結ぶことにより、お互いの背後が安全となるため、各々の懸案事項となっている敵に対し、それぞれが自国の兵力や資源の集中を図ることができる、というものです。」
 希の特徴であるエセ関西弁もこの場では出てこない。希はこの会談の趣旨を一通り説明をすると、にこのほうに目をやった。にこは静かに目をつむると、続けなさい、と頷いた。
「同盟の証として、誓紙を交わすほか、晴信公の娘を北条家へ、氏康公の娘を矢澤家へ、そして我が主君、矢澤にこ様の妹、矢澤ここあ様を武田家へそれぞれ嫁入りをさせ、結び付きをより強め、三家の半恒久的同盟を実現します。
 これが、今回提案する三国同盟の内容にございます。」
 希は説明を終えると、伏せていた顔をあげ、晴信と氏康の顔を見た。
「概要はそちらの東條殿が使者として来られた時に聞いていたが、よく考えたものよ。」
 希の説明に最初に口を開いたのは晴信だ。
「この甲相駿の国だけではなく、関東、北陸をも全局的によく状況を見据えた策だと感じる。」
 晴信の言葉に続き、氏康が言う。提案に対しては両者とも好意的なようだ。
「……して?この盟約の案を考えたのは矢澤殿ではなく、そちらの東條殿かな?」
 氏康が続けて質問をする。
「……そうよ。この東條による案だわ。」
 返事のしにくさからか、若干の間が空き、にこが答える。表向きには矢澤家の当主、にこによる提案となっている。しかし氏康には、もちろん言葉にはしないが晴信にもこの同盟を誰が考えたか見抜かれている。
「さようか……。」
 続く氏康の言葉は、この場の空気を一変させた。

「では早速であるが東條殿。貴殿はこの場から中座願おう。」

「なっ……。」
 この言葉に、にこは驚愕した。晴信も表情こそ変えないが、にこに強く視線を向ける。
 当の希は、少しだけ眉を動かすと氏康に返事をした。
「なにゆえ、にございますか?」
 氏康は答える。
「なにゆえ?……そうだな東條殿、それはお主が一番よくわかっていよう。この盟約、これは三家の未来を占うもの。されば三家ともお互い隠すところなく腹を割って話したい。しかし……」
 氏康は次の言葉に間を置いた。


「東條殿、お主は少しばかり口が達者すぎる。」


 氏康の言葉は、希にとっては耳が痛い言葉だっただろう。氏康は続ける。
「この場にお主が居続ければお主の口からは、お主の心にもない言葉もあまた繰り出されるであろう。たしかにこの盟約はお主が考えたものであろう。しかし、それについてお主と話をしにきたわけではない。この盟約は三家の未来を占うものであればこそ、儂は駿河の国の当主である矢澤殿と腹を割って話したいと考えておる。」
 氏康はそう言い切ると、まず晴信に問いかける。
「それでよろしいかな?武田殿。」
 晴信の返事は、否定の言葉ではなかった。
「これは三国の盟約の話であろう。そのうち一国の当主からの提案とあらば、儂が拒む理由はなにもない。」
 意見は二対一となった。
「心外にございますな。私が心にもないことを言うなど……。」
「いいわ、希。下がりなさい。」
 抵抗の意思を示そうとする希の言葉を遮ったのは、他の誰でもなくにこであった。
「しかし……。」
「いいから下がりなさい。氏康殿の言うとおり、この会談は三国の盟主によるもの。氏康殿も晴信殿も、この場には家臣どころか供回りもなしで、身一つで来てもらっている。たしかに希がこの場にいる理由はないわ。」
 希はにこに返事をする。希は仕方ないか、という顔を見せると、再び顔を伏せた。
「わかりました。主命とあらば、私はこれにて中座いたします。
 氏康殿、晴信殿。……そして我が主。この場が三国の未来の繁栄を築くものとなるよう、存分にご検討あれ。」
 希はそう言うと、顔をあげて部屋を出た。
 希は部屋の外で大きく息をすると、天を仰いだ。
 
(ここまでは読み通りや……。あとは頼んだで、にこっち───。)