「Craft SS World!」

戦国時代を中心とした歴史系サイドストーリー!遅筆です。。。

「ラブライブ!Sengoku Warlord Festival ! ~桶狭間編~」 ②

「海未ちゃん!朝ごはん食べようよ!」
「海未」と呼ばれた女の子は声の主に返事をする。
「朝ごはんなんてとっくに済ませましたよ。穂乃果は起きるのが遅すぎます。」
海未に声をかけたのは、先程まで行っていた軍議を終えて出てきた穂乃果だ。穂乃果はバツの悪そうな顔で「そっかぁ…」と呟く。

「それより穂乃香、軍議は終わったのですか?」
「う~ん、終わったというか終えたというか…。状況は聞いた?」
「概ねは聞きました。矢澤家が大軍で攻めてくるそうですね。」
「さあて、どうしよっかなぁ……。困ったなぁ……。」
「なるほど。それで『朝ごはん』なのですね。」
不意に穂乃果が黙る。
「あはは…。海未ちゃんにはかなわないなあ。」

と言うと改めて穂乃果は海未のほうに体を向ける。
「みんながあんなに混乱した感じじゃ、まともに対策も立てられないからね。」
海未がやれやれといったように言う。
「穂乃果の悪い癖ですよ。『こんな状態で軍議はできない!』と、それだけ言っておけばいいのです。だから『アホの子』なんて言われるのですよ。」

 

 「アホの子」とは、尾張国を治める高坂家当主、高坂穂乃果につけられた俗称である。


 穂乃果は、尾張を治める高坂家の当主の娘であり、小さな頃から尾張の国の次代を担う人間として育てられてきた。容姿もかわいらしく、元気で活発な彼女は、幼い頃は周りや両親から将来を嘱望される存在であった。
 しかし、当の本人は
「勉強なんかより外で体を動かすほうが好きだもん!」
「なんでこんなにみんな堅苦しいの?やるならもっと楽しくやろうよ!」
などといった調子で過ごす日々が続き、彼女のその姿勢は、年を重ねても変わることはなかった。そして、彼女が年齢を重ねるにつれ、
(元気がよいというより、ただお転婆なだけではないのか?)
(次期当主としての自覚はあるのか?)
(この子に尾張を任せてよいのだろうか?)
と、周りからの彼女への期待は、時間と共に侮蔑へと変わり、ついには「アホの子」と呼ばれるにまで至った。

 

「あはは……。海未ちゃんは厳しいなあ。」
困ったような顔で穂乃果が言うと、
「こほん…。すみません、穂乃果。少し言いすぎました。」
申し訳なさそうな顔で海未が謝る。

 

 この海未という女の子は、穂乃果の正室である。
 「え?女の子に女の子の正室?」と疑問に思うかもしれないが、この物語はむしろそれが当たり前の「そういう世界」である。作者の趣味である。許容してほしい。
 話は逸れたが、海未は尾張の隣国、美濃の国を治める園田家の姫であった。
 東海道を治める矢澤家からの侵略に対抗するため後ろ盾のほしい尾張高坂家と、矢澤家からの侵略に対し前線をきって戦う勢力のほしい美濃園田家の利害が一致し、数年前に高坂家と園田家は婚姻関係を結んだ。
 この「海未」という女の子は、容姿は美しく、頭は切れ、思慮深く、さらに弓の腕前は男にもひけをとらない、まさに文武両道を体現した存在である。
 海未が尾張へ嫁入りをする際、海未の父親が海未へ、野心あふれる言葉と共に小刀を渡した。
「海未、おまえの伴侶となる高坂穂乃果という娘、世間が申すように『アホの子』ならば、この小刀で切って捨ててくるがよい。それと共にこの園田家が、すぐさま尾張を掌握しよう。」
 その言葉への海未の答えは、こうであった。
「お父様。では高坂穂乃果が、世間が言う『アホの子』ではなく、もっと大きな存在ならば…。端的に言うなら、天下をうかがうような存在ならば、この小刀……、美濃を治めるお父様へ向けることになるかもしれません。」
 彼女は、頭の良さだけではなく、何よりこの「大胆さ」と、闇の戦国時代を生き抜くための「覚悟」を併せ持った女の子だった。
 そんな海未と穂乃果は、いわゆる互いの家の利害のため、「政略結婚」という戦国時代の一つのならわし、かりそめの形で結ばれた関係である。

 

「みんなから信用される当主になるのって、なかなか難しいよね…。考えも落ち着きもない穂乃果に、当主らしさってあんまりないから……。」
一瞬、穂乃果は目を伏せて口をつむぐ。が、すぐにいつもの元気と明るさを取り戻す。
「それにおなかすいてるのは本当だしね!何をするにしても、とりあえず朝ごはん食べなきゃ始まらないよ!ごはん~、ごはんっと。」
「あ、穂乃果…。」

子供のような明るい声を残して食卓へ向かう穂乃果へ、海未が声をかける。
(あなたの元気さや明るさは、あなた自身が持つ当主の姿なのです。自信を持ってください。)
「なに?海未ちゃん。」
「いえ…。なんでもありません。落ち着いてごはんを食べるのですよ。喉に詰まらせますから。」
「もー海未ちゃん!ごはんを詰まらせるなんて、穂乃果そこまで子供じゃないよっ!」
穂乃果は今度こそ食卓へ向かった。その後ろ姿は、これから凄惨な戦いを強いられる高坂家を、当主として背負って立つとは思えないほど、明るく元気のよい姿である。
(『自信を持ってください』なんて、言えるわけありません。高坂家の当主として、尾張を守る存在として、誰よりも背負うものが大きいのは、わかっていますし、その自信が必要なのは、誰よりも穂乃果が一番わかっています。

 先程の言葉は、私が言うにはあまりに『無責任』ですね。)
 
 食卓へ行ったはずの穂乃果の足音が、踵を返して再び聞こえてくる。
「あ、海未ちゃん!ごはん食べたあとで作戦の相談に乗ってよ!なんか思いつきそうなんだ!」
「はいはい、まずは朝ごはんをいただいてきてください。」
 海未は穂乃果に返事をすると、自分の小刀のほうに一瞬だけ目をやり、視線を切る。
(お父様。やはりこの小刀は、お父様のためのものにはならないようです。)

 

 海未は穂乃果の最大の理解者として、彼女の姿を、行動を、願いを支え続ける。
 「政略結婚」という形で結ばれた二人のかりそめの関係は、激動の時代の中でお互いがかけがえなく思う信頼関係へと変わり、戦国の時代を共に歩み続けていく。

 

< ③へと続く >