「Craft SS World!」

戦国時代を中心とした歴史系サイドストーリー!遅筆です。。。

「ラブライブ!Sengoku Warlord Festival ! ~桶狭間編~」 ①

 尾張の国、高坂家の治める清洲城は、一人の物見の報告により朝から騒然としていた。
「穂乃果様、ご報告申し上げます!駿河国の矢澤家の軍勢、駿河の国を発進のもよう!矢澤家当主、矢澤にこを総大将としてこの尾張へ侵攻して参ります!」
「なんと……!」
「そんな……。」
物見の大声と、その声に高坂家臣団は色めきだった。
 それとは対照的に、「穂乃果」と呼ばれた女の子は
「え~……。明日は城下で開かれるお祭りに行こうと思ってたのに、タイミング悪すぎだよぉ~。」
と煩わしそうに口を開いた。
 その言葉に家臣の一人が半分呆れ、半分怒りの口調で
「穂乃果様!矢澤家が尾張へ迫ってきているのですぞ!祭りなぞ当然に中止でございます!」
と言い放つ。そして続けざまに物見に尋ねる。
「して?矢澤の軍勢は?」
「はっ!詳細は引き続き調査中にございますが、旗と物差しの数から約三万五千人から四万人程度と思われます。」
家臣団はさらに色めき立った。
「四万だと!?」
「我々の軍勢は五千も満たぬ!」
「いつぞやのような小競り合いの軍勢とは違う。とうとう本格的に動き出したか!」
「この尾張、矢澤に丸飲みにされますぞ!」
緊張と不安の混じった声が部屋を包む。
 物見の報告を要約すると、高坂家が治める尾張の国の隣、今の東海道一帯を支配する矢澤家が四万とも言われる兵隊を率いて尾張への侵攻を開始した。それに対して高坂家の兵力はそれに遠く及ばない程度である。つまり、国力の差が歴然としている相手に侵攻を開始され、高坂家は未曾有の危機を迎えることとなったのだ。家臣団が慌てふためくのも無理はなかった。
 その中でただ一人、緊張も不安もない、ある種楽しげな口調で言葉を口にした人間がいた。
「矢澤家の大将って、『にこ』って名前なんだ。とってもかわいいね。『にこちゃん』って呼ぼうかな。」
 先程の「穂乃果」である。
 これには騒然としていた家臣団も閉口する。
「今日は起きるのが遅くてまだごはん食べてないんだ。朝ごはんを食べながらにこちゃんへの対策は考えるね。みんなもとりあえず持ち場に戻っていいよ。また呼ぶから。」
 穂乃果はそう言って席を立つと、早足で部屋を出る。家臣団はその姿を呆気にとられながら見送った。

(はぁ……?)
 
 穂乃果の退席後、しばらく誰も口を開くことはなく、どこからともなく諦めの雰囲気が部屋を覆った。
 家臣の一人がその空気に耐えかね
「持ち場へ戻る。」
と言って部屋を出ると、家臣団はポツリポツリとそれぞれ部屋を出ていった。
 
(この「アホの子」が……。これでは尾張も高坂家もおしまいだな。)
 
 未曾有の危機を前に、図らずもあらぬ方向で家臣達の心は一つになっていた。